医療レーザー脱毛における
レーザー波長の種類と選択
医療レーザー脱毛の治療効果は使用するレーザー機器に大きく左右されます。ここで重要なのは機器の名称や新しさ以上に、そのレーザーが照射できる「レーザーの波長(nm)」が患者様ご自身の肌と毛の状態に合っているかという点です。波長が異なるとレーザーが届く深さや毛の黒い色素(メラニン)への反応の仕方が変わるため、脱毛効果と肌トラブルのリスクが大きく異なります。
ここでは、現在主流である3つのレーザー(アレキサンドライト、ヤグ、ダイオード)の性質と実際の治療における特徴を詳しく解説し、科学的な視点に基づいたレーザー波長選びの基本的な考え方をお伝えします。
1.
医療レーザー脱毛の仕組み
―なぜレーザーで毛が抜けるのか―
医療レーザー脱毛は「選択的光熱融解」という原理を応用した治療法です。これはレーザーの光が周囲の肌へのダメージを抑えながら、ターゲットである毛の黒い色素(メラニン)に選択的に吸収され、熱に変わる仕組みを指します。
レーザーを照射すると毛の中にあるメラニンがそのエネルギーを吸収し発熱します。その熱が毛根にある毛母細胞やバルジ領域といった発毛に関わる組織に伝わります。これにより組織が熱で破壊され、毛の再生が困難になることで長期的な脱毛効果が得られるのです。
2. 各レーザーの性質と特徴
アレキサンドライト・レーザー(波長:755nm)
- (1)性質
- 波長755nmの比較的浅い範囲に作用するレーザーです。毛の黒い色素(メラニン)への吸収率が非常に高いため、少ないエネルギーでも効率よく毛根に熱を伝えることができます。一方で、肌表面のメラニンにも強く反応するため、色黒の肌ではヤケドのリスクが高まります。
- (2)特徴
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◯ 得意な肌質・毛質
身体や手足など、比較的根が浅い毛に向いています。メラニンへの反応の良さから、産毛のような細い毛にも効果が期待できます。色白の方であれば出力を上げられるため特に効果を発揮します。
◯ 痛み
一般的に「輪ゴムで弾かれたような痛み」と表現されます。
◯ 美肌効果
肌の浅い部分に作用するため、シミやくすみの改善といった副次的な効果が見られる場合があります。
◯ 注意点
日焼けした肌や色黒の方、色素沈着がある部位への照射は他の波長よりもヤケドのリスクが非常に高いため、施術できないか極めて慎重な判断が必要です。
ヤグ・レーザー(波長:1064nm)
- (1)性質
- 波長1064nmの最も皮膚の深くまで届くレーザーです。黒い色素(メラニン)への吸収が穏やかなため、肌表面のメラニンに左右されにくく、エネルギーが深い毛根までしっかりと届きます。
- (2)特徴
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◯ 得意な肌質・毛質
男性のヒゲやVIOなど、根深い毛の処理は他の波長に比べ、圧倒的な効果があります。レーザーによって毛が硬くなる「硬毛化」が起きた場合の対応に選択されることもあります。また色黒の方や日焼けした肌のレーザー脱毛でのヤケドのリスクが他の波長よりも高くありません。
◯ 痛み
皮膚の深い部分で熱が発生するため、他のレーザーより痛みが強い傾向にあります。ただしそもそも根深い毛の処理は痛みが強いので、同じ効果が出るような出力であれば他の波長よりも痛みは弱いことが多いです。
◯ 注意点
痛みが強いため、冷却や麻酔などを併用して、患者様の状態を確認しながら施術を進めることが推奨されます。
ダイオード・レーザー(波長:800nm - 940nm;機種による)
- (1)性質
- 波長800nmから940nm程度(機種による)の中間的な深さにまで届くレーザーです。アレキサンドライト・レーザーとヤグ・レーザーの中間的な性質を持ち、幅広い肌質や毛質に対応できる汎用性の高さが特徴です。
- (2)特徴
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◯ 得意な肌質・毛質
根深い毛から浅い毛まで、また細い毛から太い毛までそれなりに幅広く効果があります。
◯ 痛み
アレキサンドライト・レーザーと似た痛みです。
◯ 注意点
色々な毛にそれなりに効果がありますが、非常に細かったり、色が薄かったりする毛にはアレキサンドライト・レーザーほど効果はありません。また根深い毛にはヤグ・レーザーほど効果はありません。
3. 肌質や毛質に応じたレーザー選択の考え方
- (1)肌の色(スキンタイプ)から選ぶ
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◯ 色白の方
基本的にどのレーザーも使用可能です。
◯ 色黒・日焼け肌の方
ヤケドのリスクを避けるため、肌表面のメラニンの影響を受けにくいヤグ・レーザーを使用すれば施術できる場合があります。ダイオード・レーザーも使用可能なこともあります。ただしどのレーザーでも出力は上げられないため、効果は弱くなります。
- (2)毛の質(太さ・色・深さ)から選ぶ
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◯ 根深い毛(ヒゲ、VIOなど)
毛根が深くポップアップが起こっても再生するようなしぶとい毛が多いため、深部まで届くヤグ・レーザーが最も適しています。
◯ 産毛・細い毛
毛のメラニンが少ないため、メラニンによく反応するアレキサンドライト・レーザーやダイオード・レーザーが向いています。ただし細くても根が深めの場合にはヤグ・レーザーでの高出力設定でないと効かない場合もあります。
4. レーザー脱毛に関する技術的なQ&A
- Q.クリニックによって使えるレーザーが違うのはなぜですか?
- クリニックの治療方針やどのような患者様に多くお越しいただきたいかという考え方の違いが主な理由です。例えば、様々な肌質の方に対応するために複数のレーザーを揃えるクリニックもあれば、男性脱毛に特化して根深い毛に強いヤグ・レーザーのみを導入するクリニックもあります。複数の機種を用意できない場合は様々な毛にそれなりに効くダイオード・レーザーのみを用意することもあります。
- Q.施術を重ねると、毛が抜けにくくなると感じることがあるのはなぜですか?
- いくつかの理由があります。まず、施術を繰り返すと毛が細く、色が薄くなります。すると、レーザーの熱を吸収するメラニンが減るため、十分なダメージを与えにくくなります。また、アレキサンドライト・レーザーやダイオード・レーザーでの処置の後、しぶとく残った毛はもともと毛根が深い場合が多く、より深くまで届くヤグ・レーザーでないと処置できないこともあります。このように毛自体や残っている毛の状態が変化するため、同じ設定のままでは効果が出にくくなり、出力を上げるだけでなく、レーザーの波長(種類)を見直すといった工夫が必要になることが多いのです。
- Q.レーザーの出力はどのように決めているのですか?
- 医療脱毛の出力に、決まった標準値というものはありません。最適な出力は、①レーザーの種類(波長)、②肌の色、③毛の質、④照射する部位、⑤照射径、といった条件によって一人ひとり異なるからです。実際の治療では、ヤケドなどの肌トラブルを起こさず、かつ毛根にしっかりダメージを与えられる、ぎりぎりのラインを見極めて設定します。この基準はクリニックによっても異なります。肌や毛の状態などによっては出力一覧表などに記載されている最大値まで上げられない場合もあります。そのため、施術ごとに出力設定を正確に記録し、次回に活かすことが非常に重要です。
5. まとめ
医療レーザー脱毛におけるレーザーの選択は、単なる好みではなく、科学的な根拠に基づいた判断が求められます。患者様一人ひとりの肌の色、毛の質、脱毛部位といった状態に合わせて、各レーザーの性質を理解し、最も効果的で安全な方法を選ぶことが、クリニックの重要な役割です。
これから脱毛を始める方は、料金や通いやすさだけでなく、ご自身の状態に合わせた最適なレーザーを提案してくれる、信頼できる医療機関を選ぶことが、最終的な満足度につながります。
この記事は医療脱毛ぼくらのクリニックの
吉田 元 管理医師が監修しています。